笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.001

彫金師

 

 おれさあ、今度結婚するんだよ。相手は金屋のオーナーなんだ。おれが作って彼女が売る。最高のコンビネーションだろう?

 おれは65年にサイゴンで生まれて、ずっとサイゴン暮らし。中学を中退して建設現場で働いてたんだけど、現場作業員じゃあ将来性ゼロだって気づいたんだ。それでなんとかしようと思って22才で彫金師に弟子入りした。彫金なら人に使われずに自分のペースで仕事が出来るし、ものを作るのも楽しそうだったし。だけど修業中は給料が貰えなくて資金切れ。しかたなく建設現場に戻って3年ほど金をため、再挑戦したってわけ。 

 注文はほとんど金屋経由で入ってくる。凝ったデザインのでも月10個は作れるけど、オリジナルを考えだすと月に2個くらいが限度だね。デザイン料は貰えないけど、いいデザインならまた注文が来るから、ヨーロッパの雑誌なんかを参考に、ベトナム人好みのこってり系にアレンジして作ってるんだ。

 金屋は安くたくさん作らせて儲けようとする。店は売れば売るほど儲かるからいいけど、作る方とすれば、製作数には限りがあるし、コンスタントに注文があるかどうかもわからないから、単価は下げないようにしている。それで収入は1個作って、40万? 100万ドンってところ。今のところ順調だね。

 それより問題は世界の狭さなんだ。一人でこもって仕事をしているから、付き合う人が限られてくる。気がつくと同業者とばかり話している。それじゃあ自分の世界が広がらない。もっといろんな人と話して、人の好みなんかも知らないと、仕事の上でもよくないのはわかっているんだけど、なかなか時間が許さないよ。

 将来はデザインもラインナップを揃えてシリーズ化したいね。彼女の店もチェーン展開して、そこにおれのデザインがずらっと並んだらいいだろうなあ、って思ってるんだ。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

 

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