笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.003

路上写真屋

 

 わしゃこう見えてもな、昔はNHKサイゴン支局でバリバリ写真を撮っとったんじゃ。写真だけじゃあなくフィルムも廻した。
 中部へ出かけて行ってサイゴンに戻り、翌日はまた戦場、ケソン、クアンチ、プレイクとあっちこっち飛び回った。伊田、斉藤、森、その他大勢の日本人やアメリカ人、フランス人と一緒に仕事をした。
 そこら中死体だらけの所もあったけど、それが日常になってしまって、特に怖いとも感じなんだよ。

 75年からこっち、こうやって街で頼まれ写真を撮っている。昔は結構いい商売じゃったが、今じゃあみんなカメラは自前、なかなか客がおらんよ。
 NHKにいたころは給料はよかったが、今じゃあ1枚撮って6千ドン、そこから経費と月15万ドンの税金を払うと、たいして残らん。祭りでもあれば30枚は撮るが、雨など降れば客なしの日もあるしな。
 どこで写真を覚えたかって? 昔は写真学校などないから、店で丁稚をして覚えたんじゃ。給料無しの授業料なし。公平なもんじゃろう。

 このカメラはペンタックスSP、これで4台目じゃ。ペンタックスは値段がそこそこで使いやすいから愛用しちょる。息子たちも写真好きで、定職を持ちながら町に出て頼まれ写真屋をやっとるが、みんなペンタックスを使っとるよ。

 家は5区、末娘の家にやっかいになっとる。毎日サイゴン教会まで自転車で来る。運動になるのでバイクよりいいんじゃ。
 この仕事が好きだし、ひとりで気ままに働けるんで気に入っとる。72才で半分隠居みたいなもんじゃで、生活にも困らんしな。
 税金の関係で仕事場が決まっているので、8時から6時まで、いつもここらで写真を撮る。いつでも声をかけてくれれば、NHK仕込みの腕と50年の経験で、いい写真を撮ってみせるよ。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

 

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