笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.010

北部の農民

 

 初めてホーチミン市に来たけれど、なんだか外国に居るようだねえ。ハノイと違って近代的な街を見られて、こんなにうれしいことはないよ。


 わしはハノイの郊外で米を作っとるんだが、息子が切符を買ってくれたので、ドンナイに住む妹に会うために生まれて初めて飛行機に乗った。揺れたり、静かだったり、飛行機ってのは変な乗り物だねえ。

 生まれてからずっと農業一筋、戦争の時も弟が兵隊に行ったので、わしゃ家で農業をしてた。

 家の方じゃあ米は年に2回採れる。1月に植えて5月に採り、6月に植えて9月に採る。10月か12月までは芋やトウモロコシ、ラオカイやラオムーンを育てるんだ。

 田圃は政府の土地で、家族の人数によって貸し出される。だから、子供たちが同居してた頃は1haほどあったものが、今はばあさんと二人、半分になった。土地代はタダだが、税金として米一回の収穫ごとに200kgを政府に納めることになってる。野菜は水やりやら何やら世話が大変だが、税金がかからないのでいい収入源だ。

 他に家の庭が700平米ほどあって、小さなリンゴやロンガン、マンカウなどの果物を作っている。作物は自家消費分以外を市場で売る。市場にはハノイに売りに行く仲買人や地元の人でにぎわっとるよ。

 その売り上げが年に4〜500万ドンになる。田舎だから、月の生活費は、電気代やその他ひっくるめて、ばあさんと二人20万ドンもあれば十分、金は残るよ。

 子供は8人。みんな独立して3人は南に住んでいる。年に一度は帰ってくるので、寂しくはないよ。誰も農業をしていないが、それはいいことだろう? だって、農業は大変だし、収入も少ないからねえ。それもこれからは変わるかもしれん。そうしたらきっと子供たちも農業をするんじゃあないかな。

 ドンナイで妹の家にやっかいになった後は、知り合いの車に同乗して北へ帰るつもりじゃ。ブンタオやニャチャン、フエにも寄っていくので、今から楽しみで仕方がないよ。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

 

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