笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.014

芸術家

 

 今は生まれ故郷のダラットで詩を書いたり、彫刻やカリグラフィーを創ったり、絵を描いたりして暮らしている。ダラットは一年中暑くもも寒くもないし、大好きな自然が多いから気に入っているんだ。

 たまにサイゴンに出ることもあるよ。友人達とカリグラフィーを創ったりして楽しむんだ。チン・コン・ソンとは反フランスの学生運動をしていた頃からの知り合いだったので、よく一緒に創作したものだが、昨年亡くなってしまった。ヤツももう少し酒を控えればよかったんだろうが、いろいろ事情もあるからなあ。

 ダラットの自宅のリビングルームを開放して、カフェをやっている。毎日何人かの客が来るが、外国人が多いね。天気がよければ庭に出てたくさんの木を見ながらコーヒーを飲む。客の多くはここを気に入ってくれて、寄せ書き帳になにか一言書いていくよ。

 日本の雑誌やテレビの取材も何度か来た。雑誌は何冊か取ってあるが、日本語が読めないから内容はわからないなあ。

 若いときはサイゴンで新聞記者をしていたんだ。ダラットに戻ってきてからはメディテーションと創作の毎日さ。
 メディテーションをしているとイメージが湧くので、それを詩にしたり、絵に描いたりする。本当は抽象画が好きなんだが、抽象を描くと具象が描きたくなり、具象を描くと今度は彫刻がしてみたくなり、だからここにはいろんなスタイルの作品があるんだ。

 庭が花畑になっているだろう。家内は花が好きで、ああやって育てては市場に売りに行く。もちろん家でも楽しむがね。
 3人の子供のうち2人はサイゴンでコンピューターの仕事をしているが、一人娘はダラットテレビで働いていて、すぐ近くに住んでいるよ。

 今は昔に比べて自由になって、表現の幅も広がった。好きなことがすぐできて、本当に面白い。
 ダラットにも芸術家が増えてきた。だがまだみんな表現が浅いような気がする。もっと突き詰めれば、もっといいものができるはずだ。そんな人が増えてくるともっと面白くなるんだがな。

 そんな日まで猫と犬を相手に、こうやって待つことにするさ。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

 

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