笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.017

天秤棒おこわ屋

 

 1954年に、3ヶ月の長男を連れて、宿六の家族共々ハイフォンから出てきた。それからずっと同じ場所でソイ(蒸した餅米・ベトナムの典型的な朝食)を売ってる。50年なんてアッと言う間さ。

 メニューは3種類。テト前にはバンチュンも売る。朝飯だから5時には商売開始さ。そうしないと客を逃がす。だから仕込みは1時からだよ。柔らかく仕上げるためには3時間以上かけて蒸さなきゃあだめなんだよ。

 宿六の稼ぎが悪いからね、ソイ屋で子供10人を育てたようなもんさ。ひとつ1,000〜5,000ドンだけど、毎日40kgを売りつくすから、月に300万ドンは稼ぐよ。今じゃあ子供もみんな独立したから、老後のためにしっかりタンス預金だよ。

 雨が降ったら後ろの店の軒を借りる。以前は店の中に入れてくれたんだが、今じゃあこの辺もみんな小綺麗なブティックなんぞになっちまったんで、そうも行かなくなった。

 '75年前よりも今の方が客は多いねえ。戦後は外国に行った客も多くて、一時は寂しくなったけど、みんな朝飯食わなきゃ働けないから、それほどひどいことにはならなかったよ。
 客はほとんどベトナム人だね。外国人はたいていベトナム人と一緒に来るよ。越僑の中には、ベトナムに来るたびに寄ってくれるのもいるし、空港に向かう道すがらいくつも買っていくのもいるよ。

 毎朝3区の家からここに来るのさ。今じゃあ長男がシクロ漕ぎでさ、自分のシクロで送ってくれるけど、昔はバスやセラムに乗ったり、シクロを雇ったり、大変だった。

 滅多に病気もしないし、3年に1回くらい行くニャチャンやフエへの旅行を楽しみに、働ける内はまだまだソイ屋を続けていくさ。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

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