笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.019

すし職人

 

 らっしゃい! 今日はマグロのいいのが入ってるよ。わたしゃ、この道13年、チャキチャキのサイゴンっ子。だからうちのすしはサイゴン前だよ。


 13年前に見つけた仕事がホテルの日本食屋。大将にいきなりすしをにぎれって言われて戸惑ったよ。だってすしなんて見るのも初めて。もちろん食べたことはない。

 生魚だろ、最初は恐る恐る食べてみた。なんだか不思議なモノを食べたなってのが正直なところさ。それから何回か食べてたら、ある日旨いと感じたね。

 すしをにぎるのは、簡単に見えた。だけどやってみたら難しいんだ。いろいろと細かいことを、ひとつずつ覚えていかなきゃならない。一通り覚えて分ったけど、一番難しいのはシャリのにぎりだね。いまだに一番難しいと思うよ。

 昔は日本人のお客さんばかりだったけど、だんだん欧米人が増えてきた。今のハイバーチュン通り沿いの店に移ってからは、ベトナム人のお客さんも多くなったよ。ベトナムでもすしがポピュラーになってきたんだなって思うね。

 すしで一番大切なのはネタの鮮度だね。ネタの半分くらいはベトナムの魚で、こいつらを絞めてすぐどうやって新鮮なまま保存するか。なるべく水を使わないでラップするとか、いろいろ工夫している。幸いこの店には先輩がいたから、二人で旨いすしをにぎるように切磋琢磨しているよ。

 休みは毎週日曜日。子供が1歳になったばかりで、最近はあまり出歩けないけど、以前はよく女房と食べ歩きをしたもんだ。たまには他のすし屋にも行った。日本人がにぎっている店もあるし、盛り付けやシャリの味が気になるポイントだね。13年で給料は6倍になったよ。でも贅沢はしない。だって日本に修行にも行きたいし、将来店も持ちたいからね。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

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