笹原亮が綴るベトナムの職人芸

100人百職

APEXベトナムスケッチ提供

 

職人No.35

絵刺繍職人

 

  私はこの業界で30年ほど働いています。以前は輸出用の着物やTシャツに刺繍をする仕事をしていましたが、会社が事業を縮小したので、今の仕事に移りました。

 刺繍は元々中国からベトナム北部に伝えられ、それを教会関係者が宗教用の刺繍として広めました。私はハノイから来た先生に3ヶ月ほど基礎を習った後、仕事をしながら技術を磨きました。

 最初はやさしい花などを手がけ、上手くなってくるに従って難しいものを作ります。一番難しいのは写真が原画の人物の顔でしょう。

 写真原画のオーダーは40×60cmのものでも2人がかりで6ヶ月は必要です。その分売り値も1,000米ドル以上になりますが、そんなオーダーは少ないですね。

 刺繍の工程は、まず専門の絵師がトレーシングペーパーに下絵を描き、それを布にトレースします。その絵に添って2人から5人くらいのチームで刺繍していきます。同じくらいの技量の人と組まないと上手くいかないんですよ。

 原画があるものはそれを見ながら糸の色を選べますが、ないものは自分で色を考えて縫っていかなければなりません。糸は同じ緑でも濃いものから薄ものまで10種類くらいに分かれています。それが微妙に違う色毎にあるので、全部で何種類あるのかわからないくらいたくさんあります。そんな中から最適な色を選ぶのが、この仕事で一番難しい部分です。上手くなるには経験を積むしかありませんね。

 変な糸を選ぶと絵がチグハグになり、そんなときは全部やり直しですから大変です。反面、適した糸を選べると、きれいに仕上がります。そんなときは本当に嬉しくて、この仕事がますます好きになる瞬間です。

 そうやって1日8時間、週6日間刺繍をします。最初の頃は目の疲れや肩こりに悩まされましたが、今では疲れることもなくなりました。

 給料は人によってそれぞれですが、1ヶ月80万ドンから150万ドンくらいです。それでも仕事があるのはありがたいし、それが好きなことならなおさらです。私はアートに興味があるので、この仕事が大好きです。ですからこれからもずっと続けていきたいと思っています。

【文・構成 : 笹原亮(ジャアク商会)】

 

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