タイの深部を探るエッセイ

ブライアンの世界 2

協賛 バンコク週報

提供 ジャアク商会

 

 

ウエルカムフルーツの謎

 中級以上のホテルにチェックインし、部屋に入ると最初に待ち構えているのがウエルカムフルーツだ。小さな皿の上に、いろいろな果物が並んで置かれ、見かけはなんとなくゴージャス。これが用意されていると、「ああ、無事に予約が通っていたんだ」 と、過去の努力がむくわれる思いがしてほっとする。
 しかし、これはいったいなんのためにあるのか、実のところよくわからない。というのも、ほとんどの場合エアコンの効いていない室内にずっと放置されていたため、とても食べられた状態にないからだ。埃などがかからないようラップにくるまれていることもあるが、果物たちはその中で急速に熟し、あるものは限度を越えて腐敗に近い状態になっている。高級ホテルの場合は客の到着時間を推定し、その時刻に合わせてていねいにラップをはずして待っていてくれたりするが、そのわずかの隙をついて、働き者のアリたちが集まってくる。フルーツの横にはチョコレートがつけあわされているものだが、黒アリたちのおかげでホワイトチョコレートが真っ黒になっていたこともあった。
 これらの不快なウエルカムフルーツは本当に歓迎のために用意しているのだろうか。逆に、「ここはお前の来るところじゃない」 と言われているような気がするのだが。

 

 

マイ・サバーイの街

 私の知人に六年以上もバンコクで働いている男がいるのだが、このところめっきり元気がない。仕事に追われ、名前もよく覚えていない飲み屋のオネーサンにも追われ、心労で健康を害し、すっかり憔悴している。そんな彼がポツリと言う、
「タイ人はよくサバーイと言うが、バンコクにサバーイな環境なんてあるんだろうか」
 考えてみると、あまりない。旅行者や観察者としてぼんやり眺めている間はなんてすばらしい街なんだと思えてしまうが、実際にここで生活を始めると、働いてタイバーツを稼ぐようになると、毎日がつらい。それでもここから脱せられないは 「魅力的だから」 とか 「日本で働くよりマシ」 といろいろ理由があるようだが、最近になって、それらはただの幻覚ではないかと思うようになった。バンコクに住むのはそんなに魅力的なことなのか?
 前述の彼はモーレツに働いている。残務処理で徹夜も珍しくない。おかげで業績も順調に上がっているが、彼がもし日本で同じだけの働きをしていたら、今頃は部長あたりに出世して、年収は今の三倍、有給休暇は倍になっているのは間違いのないところだ。
 今からでも遅くない、なのに日本に帰らないのはなぜ、なんて野暮なことは言っちゃいけませんよ。人にはそれぞれ理由があるものですから。

 

 

タイ式マッサージは効くのか

 タイ名物のひとつにマッサージがある。タイでは医術のひとつに数えられていて、王室寺院でその秘密を教えているし、指南書の類も多数出ている。最近はパッケージツアーのコースにも組み込まれていて、「これほど気持ちのいいものはない」という声も聞く。
 しかし、私はこのタイ式マッサージについて疑問を持ち始めている。はたしてこれは、巷で言うほど効くのだろうか。疲れがとれたと感じるのは、マッサージは体にいいと単純に慣例的に思い込んでいるだけの幻想なのではないのか。
 体が慣れてしまったのか、マッサージを受けても効いた気がしない。揉まれたり押されたり伸ばされている間はたしかに気持ちがいい。しかし終わって店を出て、冷静になって全身をチェックしてみると、それほどさわやかになっていないのだ。疲労を分散させただけで、本質的にはなんら変化はないのではないかとも思う。
「マッサージにはよく行くの?」
 マッサージ嬢が言うので、「よく行くよ。週に二回はね」 と答えたら笑われた。週に二回なんてボイボイ行くうちに入らないのだ。
「マッサージはね、毎日してもらうものなのよ。じゃないと疲れなんてとれないわ」
 さすが医術。病院と同じで、熱心に通わないと効果は期待できないものらしい。

 

 

記事にならない街

 雑誌の仕事で 「バンコクの流行」 を追うことになった。なんでもいいから流行しているものを探して紹介してほしいという。
 そこで街を歩いて探してみたが、これが全然つまらない。流行はもちろんあるけれど、すべて世界の半年遅れなのだ。
 チビたTシャツとか、パンタロンとか、ポックリ風のヒールの高いサンダルといった若い女性のファッションは、みんなどこかの国で流行し終えたもの。日本でも同様の奥村チヨブームが起こったが、それは一年ほど前のこと。街を見渡すと、地下鉄工事、モノレール工事、道路工事と近代化に向かっていても、目新しくはない。ファストフードの店やコンビニの林立も話題性に乏しい。これらを得意に紹介したら、日本の人たちには「やっぱりタイは遅れているね」と受け取られかねない。
 今のブームはなんだとタイ人にたずねたら、「自家用車を持つこと」 との答えが返ってきた。ほかにはなにがと問いただすと、「ニュースキン」 だと。マイカーに乗ってマルチ商法に手を染めるだって? それってますますかつての日本じゃないか。
 しかもバブルまではじけちゃって、まったく日本とおんなじだ。ということは、あと5年くらいこの不景気が続くんだろうか。

 

 

元気なお年寄り

 ヤワラーの裏通りにあるそのマッサージ店の客は常連ばかり。しかも、その大半が老人だ。逆に、彼らの相手をするのは若い女性。
 若いといっても老人に比べればの話だが、その彼女たちは彼らにマッサージを施すのが怖いと言う。マッサージしている最中にポックリ死ぬんじゃないかと思っているからで、個室に入ってもぐったり寝ているだけの客だったりすると、息が止まっているんじゃないかと気が気でないとか。
 逆にやたらと元気な老人も多いらしい。たとえばこの店の常連に70歳の老人がいる。彼は毎日ランニングをして鍛え、体は頑健そのもの。一晩で6回のセックスをいまもこなすと豪語していて、その肉体を見ていると、まんざら嘘でもないらしい。
 ほかには妙な方向に元気さのある老人も多いらしい。仰向けになって体を揉まれながら、同時にマッサージ嬢の胸を揉みまわす老人もいるという。親切なマッサージ師は希望どおりにさせてあげるが、若い娘の中には驚いて逃げ出すものもいるとか。
 また、マッサージに来て 「マッサージなどいらん」 という老人もいるんだとか。そのかわり、「俺にマッサージさせろ!」 と言って2時間のあいだ娘の体を揉み、満足して帰っていくという。
 老人は愉快だ。みんな長生きしてほしい。

 

 

タイの乞食はどう見ればよいのか

 最近、バンコクの街に重度身体障害者の乞食が増えたように思う。一時期、乞食といえば老人か子連れのおばさんだったのに、フト気づくと、日常生活も満足にできないような重度の障害者たちが路上にあふれるようになった。
 歩行すらできないような人が街頭に出て物乞いをしている。こういう光景はインドあたりでは珍しくないので、私も人に言われるまで気づかなかった。しかし、その気になって見ていくと、たしかに増えている。
 タイの乞食には元締めがいるというのは有名な事実。障害者の人たちも一種の仕事と考えてこの職に就いているのも事実だ。だが最近はちょっと行きすぎているような気がする。いたいたしくて、「タンブンしようか」 という気が起こる前に、ついついその場を避けてしまうのだ。
 こういう現実をどうとらえればよいのだろう。弱者を保護しない政府がよくないのか、後進国の現実などとジャーナリスト面すればよいのか。
 ハンデを乗り越えて人生に立ち向かう彼らの積極性を高く評価すべきか、あるいは恵みの金を与えない自分に対して「ケチ」と非難するべきなのか。考えてみても行き場がなくて、どうにも困ってしまうのだ。

 

 

不人気のプリクラ

 プリクラ、つまりプリント倶楽部。店頭で簡単にシール写真ができる機械のことだが、これが日本で大人気。背景は勝手に選べ、幼児部屋の飾り付けのような模様の中心に自分たちの顔が映る。売り出し当初は長い行列が続き、今では顔写真スタンプが簡単にできるスタンプ倶楽部や自前のデジタルデータを打ち込めるバリエーションまで登場している。
 これをタイに持ってきたら絶対にウケルだろうな、とだれもが考えた。もちろん私もそう考えた。タイ人は写真が大好きだし、また撮るときは人物を中心に思いきり美化して撮る。背景は人口的なお花畑などがよく、まったくもってプリクラ的なのだ。
 ところが実際に持ってきたら、全然人気が出ない。行列ができるどころか話題にすらされない始末で、整備をほとんどしないためか、大半の機械が壊れている。
 1回100バーツという値段設定がまずかったのだろうか。日本では500円で、換算すると同料金だが、お子様金持ち大国の日本とタイでは使える金が違う。リッチなお嬢様学生は多いが絶対数が少ないし、そういうお嬢様はジャリっぽさを嫌う。プリクラ的なものが好きなのは田舎出の下働き娘たちだが、彼女たちは肝心の金を持っていない。
 見事に読みがはずれてしまった。そう思っているのは私だけではないはずだが。

上の記事って本当?
「プリクラが不人気というのは、うそではないでしょうか。今では、多くの学生が列を作っているのも珍しくありませが。プリクラが不人気というのは、うそではないでしょうか、今では、多くの学生が列を作っているのも珍しくありませんが」
(98.10.26 タイ国 T大 交換留学生)

*本当かどうか、その真実は 「ブライアンの世界7」 で明らかになる!

 

 

なかなか抜けない習慣

 東南アジア旅行を終えて日本に戻ると、荷物がやたらと心配になる。座席を確保するために荷物を置いたまま席を立つなどもってのほか。ちょっと大きなバッグを持つときは、ジッパーに鍵をかけていないと隣の男が中身をねらっているような気にもなって、どうにも落ち着かない。ラッシュアワーの時間帯に電車に乗ると、尻のポケットのあたりがどうにも心細い。日本の電車の中はスリより痴漢のほうが多いというのに、習慣というものはなかなか抜けないものだ。
 しかし、身の回りに注意を払うのはまだよい習慣といえるだろう。困るのは、駐在員やその家族が身につけてしまう「威張るくせ」。この間も日本に戻る飛行機の中で、どこかのオバハンが私に向かっていきなり、「この荷物をどけなさい!」と偉そうに言うので面食らってしまった。頭上の荷物棚に荷物が入れられないので腹が立ったらしい。
「来るのが遅いからじゃないか!」
 と逆に叱ったら驚いた顔で私を見る。どうやらこの人は私をタイ人だと思っていたようで、
「あら、日本人だったんですか」
 と、とたんに殊勝な態度になった。
 いったいこういう人たちは、ふだんはどういう生活をしているのだろう。自分たちは植民地の支配者だと思っているんじゃなかろうか。


 


 

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