|
清潔な屋台
屋台や大衆食堂の清潔度を問題にする人がいる。しかし、その答えはわざわざ解説しなくても、そこで働いている人々を見ていればすぐにわかるはず。タイ人はもともと清潔好きな民族だから、衛生度だって高いに決まってるよね。
ほら、調理の女の子が材料の真上で髪をといているのが見えるだろ? 調理場だろうがどこだろうが、みんな客に失礼のないよう身だしなみには気を使っているのだよ。そのため料理に髪の毛が入っていたからといってどうだというのだ。
蚊に刺された脚をボリボリ掻いた手でメンをつかむところを見たかい? でも大丈夫、まったく心配はいらないから。タイ人は1日に3度は水浴びするから、その肌は常に清潔に保たれているんだよ。しかも、そのあとにベビー・パウダーをたっぷりつけることも忘れない。だから彼らの肌はいつも粉っぽいほどさらさらだ。
食後の食器はどうなるかって? それも心配ない。ほら、よく見てごらん。女の子たちがタライやバケツに洗濯用粉石鹸を入れて洗っているのが見えるかな。これなら泡立ちもいいし、汚れもバッチリ落ちるよね。うーん、ほのかに漂よってくるこの清潔感あふれる香りも素敵じゃないか。
このように、屋台や大衆食堂は清潔好きで有名なタイ人の清潔感によって大変清潔かつ衛生的に維持されているのですよ。だれだ! いま尻を拭いたはずの左手でもち米をつかむところを見たなんて言ってるヤツは! タイでは左手は不浄の手とされているはずじゃないかって? もう、これだから日本人にはかなわないなあ。たとえ尻を手で拭いたとしても後でちゃんと水洗いしているから平気なんだよ!
まったく細かいこと気にするんだねえ、君たちは。そんなに神経質になって、おいしいものが食べられると本当に思ってるのかい?
犬、猫、鳥の順位
小学生のとき、学校で飼っていたニワトリの一家がイタチか山猫に襲われて全滅した。鳥小屋の惨状は、それはひどいものだった。穴のあいた金網の中に残されていたのは白い羽根と真っ赤な血糊だけ。ニワトリには手がないし、足は細い。くちばしはあるが歯はない。羽根はあっても空には飛べない。こういう事件があったので、ニワトリはなんて無力ではかない動物なんだろうと、ずっと思いながら大人になった。
ところがアジアに来てみると、ニワトリほど強い家畜はいないことがわかった。
農家の庭にはたいていニワトリがいる。アヒルもいるが、同時に犬もいるし猫もいる。もちろん全員が放し飼い。日本だったらいちばん威張っているのは猫で、ニワトリなどはあっという間に餌になってしまうだろうが、ここではニワトリがいちばん偉い。
とにかく強いものだから、ほかの動物は手出しができない。足は立派で爪は鋭く、くちばしは強力でトタン板に穴まで開けてしまう。羽ばたくと30メートルほど飛んでいくし、犬も猫も手出しができない。彼らには水牛でさえ一目置いているらしく、足元のひよこを追い払って親鳥に逆襲されていた水牛を見たこともある。
そう思うと、日本のニワトリはどうしてああも軟弱なのだろう。甘やかされて育ったため、戦いのしかたを忘れてしまっているのだろう。ペット化した猫にまで存在を脅かされているが、本来は家畜の王様なのだ。
アジアのニワトリから学ぶべきことは多い。食べているばかりではなく、たくましく強い彼らの生き方を、すこしは学んでみるべきだ。
先進の技術
タイの家庭用電力の電圧は220ボルト50Hz。110ボルト用の日本の家電製品をうっかりコンセントに差し込むと、内部から火を吹いたり煙があがったりしてあっと言う間に壊れてしまう。充電式髭剃りやドライヤーを持ち込みたい人は電圧の交換が可能な機種かよく確認しておこう。高級ホテルのコンセントは110/220ボルトの切り替えが可能なので心配ないが、在住予定者や安宿宿泊者は現地でトランスを買ってから使用すること。
しかし、こんな注意はすぐに忘れてしまいがちだ。
タイに最近赴任した私の知人も、気をつけていたのは最初だけで、2ヶ月もすると油断の毎日。おかげでプリンタにスキャナにコンピュータにと、すべてふっ飛ばしてしまっている。被害総額はどのくらいだろう。メーカーも抜け目がなく、日本で売っている商品は海外で使うなと説明書に書いている。だから保証はいっさいなし。クソっ、腹が立つなあ。
しかし、いまどき、家庭用電力に100ボルトを使用している国なんてあるのかな。100ボルトを使う理由は、もしもの際の安全のためだと聞いたことがあるけど、子供の国じゃないんだから、もうすこし考えてもよかったかもしれない。100ボルトにするメリットは、実のところ、ほとんどないのだから。
こういうところを見ていくと、日本は本当に先進国なのか疑問を持ちたくなる。先進なのではなくて、先陣を切っただけなんじゃないのかな、本当は。
家族への仕送り
常宿にしている安宿で働いている女の子が唐突に言った。
「ねえ、あんたは両親にいくら仕送りしているの?」
仕送り? そんなものはしてないよ。正直にそう言ってしまいそうになったが、私はタイの常識を知っている。常識を知るものは正直には語らない。
「ウム、そうだな、月2万円ほどかな」
かなりのサバを読んで大嘘をつくと、横にいた女の子はびっくり仰天。
「ひぇぇぇ! 日本人ってなんて冷たいの! いやねえ、まったく」
たずねてみたら、彼女は給料の1/3以上を実家に送っているという。当然ながら、小遣い銭などはない。貯金なども、まったくない。
こんな調子で未来はあるのか。うーん、あまりないと思うけどなあ。
しかし、貧しい家庭の子供たちにとって、家族への仕送りは欠かせない義務。親たちも、老後の面倒を見てもらうために子供を作っているきらいがあるから、これはどうにもしかたがない。
「もっとお金を送らないと、しらないわよ。両親は大切にするべきなんだから」
小学校を出ただけの、わずか16の女の子に説教されるこの私。頭を上げることすらも、今の私にはできはしない。
これがアジアというやつさ
在タイ欧米人の間には 「TIB」 という符丁があるらしい。「This is Thailand」 という言葉の略で、タイ的不条理に遭遇したときに言うのだそうだ。
そういうことってたしかにある。長くタイにいると、「やっぱりタイだなあ」 「タイだからしかたがないか」 なんて思うことはいつもある。そして、その言葉の向こうには、「やっぱりタイは遅れてるなあ」 という意味が隠れている。
しかし、欧米人の旅行記を読んでいたら、在日欧米人の間には、「これが日本というやつさ」 という合言葉があることを発見した。日本という国は外国人に対して不親切であり、そういう局面に立ったときに口にするそうだ。「郷に入っては郷に従え」っていうけれど、「日本に行ったら日本語を話せ」 という合言葉もあるらしい。
そういうことってたしかにある。実際、日本人は外国人に対してとても不親切だ。公共施設の案内にも道路標識にも、地名の案内看板にも、英語の表示がほとんどない。これほど道路標識に外国語が使われていない国もないのではなかろうか。とりあえず東南アジアの国々には見当たらない。
タイの道路標識から英語が消されたら、日本人の大半は右往左往するだろう。あるいはそれで、もっと真剣にタイ語を勉強しようという気になるかもしれない。なにしろ、日本にいる外国人は、本当に日本語がうまいからねえ。
Japanese only
タニヤ通りにあるカラオケバーのいくつかには、このような注意書きが貼り出されている。
“Japanese only”
この注意書きを見るたびに思うんだけど、これって人種差別じゃないのかな。タイ女性の売春問題に目くじらを立てる団体は多いけど、人種差別問題を言い立てる団体はほとんどない。あるいは会員制クラブだからいいのだろうか? でも、ここに “White
only” なんて書かれてあったらどうしよう? かなりまずい問題になってしまうんじゃないかな。
店内が日本人オンリーだといいことも多い。まず、日本的作法で気楽に飲み歌い騒ぐことができる。ここに欧米人がいるとそうもいかなくなってくる。マナーを気づかう必要が出てくるし、欧米式のプレイボーイジョークにお義理の笑いで答える必要が出てくる(あれってけっこう疲れるんだよね)。タイ人がいると行儀作法は無視されるし、金をばらまいたもの勝ちの状況が生まれるから、やっぱりおもしろくない。タイで賄賂を払いまくっている日本人は、タイ人がその金で豪遊しているのを見ると気分が悪くなる。そりゃまあ当然だろう。私だって不愉快だ。
しかし、ここまではっきり明示していいものだろうか。私はどうにもいやなので、こうした店には近づかないようにしている。ああ、そういえば近づくだけの経済力もなかったな。
私の不満が、そういう 「持たざるもののヒガミ」 で終わればいいんだけどね。
旅のベテランは荷物が小さい
荷物は小さく軽いほうがいいというのは旅の鉄則。実際ラクだし、荷物の数が減れば忘れ物する確率も減る。しかし、旅する私の荷物は大きいほうだ。バッグの中には最低でも1週間分の衣類が詰め込まれている。1週間は洗濯しないという固い決意がそこにある。決意と言うほど立派なものではないが、洗濯する日は旅しない。家事の嫌いな私にとっては洗濯そのものが大仕事だからだ。
だいたい、洗って濡れた洗濯物はどうすればいい? 乾くまで待つしかないではないか。雨季の旅はさらに大変だ。散歩に出かけたすきにスコールをくらったら、午前中の努力は水の泡いや洗剤のアワ。
そんなわけで、旅先ではなるべく薄着をして、荷物を軽く小さくする必要がある。となると行き先は年中暑い国……インドに行くのもいいけれど、あそこは暑いではなく暑苦しい国だ。アフリカや南米も暑いが遠い。となれば、やっぱり東南アジアしかなく、私はいつもそこへ行く。
旅のベテランというか古老というか、御大兼高かおるはショルダーバッグひとつで世界を駆け回っていたという。そのとき洗濯物はどうしていたのだろう? 毎日洗っていたのかな? それにしても、そんなに早く乾くものだろうか。ホテルのラウンドリーサービスを利用していたんだろうな。そんなサービスが利用できるのであれば、私も世界のあちこちを旅するだろう。
いや、待てよ。そんなサービスを使っていると資金がすぐになくなるから、やっぱりインドあたりで引き返さなければならないか。
節約したらどうなる? やっぱり荷物が大きくなって、インド止まりか。
どっちにしろ、ぐうたら男の行き先は、あまりない。
タイ人のわがまま
「タイ好き」 を公言する人が多い。タイが好き、タイに行きたい、タイに住みたいなどとキャピキャピ言う。
私もタイは好きだが、好きとは言えない部分も多い。たとえばタイの男性がそうだ。私は彼らが好きではないし、いなくてもなんとも思わない。
なにがいやかと言えば、彼らのわがままがいやだ。約束は守らない、平気でうそをつく、自分のミスは人のせいにするし、媚びは平気で売るし、図星を突かれると逆恨みする。私は彼らの逃げ腰が嫌いだ。いい大人なのに、まったく駄々をこねる子供のようだ。
逆に好きなのはタイ女性だ。といっても、性格的にタイ男性とかわるところはない。性別がかわっただけのことで、やることは同じ。でも、女の子だったらなんで許してしまうんだな。腹が立ってもナデナデするし、駄々をこねたら聞いてあげる。逆に、こうした態度をかわいいとすら思っているのだからいいかげんなものだ。
よく考えれば、これはタイ人にかぎったことじゃない。日本だってそうだし、ほかの国に行ってもそうだ。私が男性であるというだけのこと。
……だが、本当にそれだけなのかな。 |