タイの深部を探るエッセイ

ブライアンの世界 7

協賛 バンコク週報

提供 ジャアク商会

 

 

著者からの返事

 著者から返事をもらうとうれしいものだ。しかし、「しまった」 と思うこともしょっちゅうある。
 たとえば以前、『少女はなぜ娼婦になったのか』 という本を読んでボロクソにけなす手紙を編集部に送りつけたら、著者である松井浩氏から丁寧な返事をいただいて恐縮してしまった。そうとわかっていたら、もっと好意的な手紙を送ったんだがなあ。
 家田荘子さんからも年賀状をいただいた。知らないかもしれないが、彼女の本に挟まれている読者カードを送ると必ず年賀状が送られてくるのだ。「目立ちたくないなら顔を出すな」 とか 「インタビュアーが目立ってどうする!」 などと、これまたボロクソに書いたのに、なんということだ。彼女はいい人かもしれないと思い、にわかにファンへと変身した。いいかげんなものだ。
 タイおたくを豪語する前川健一氏の著作にも同様の手紙を送ったことがある。「前川も老化してダイナミックな取材ができなくなった」 なんて書いたのだが、なんと本人から怒りの手紙が戻ってきた。いろいろ書かれていたけれど、やっぱりジジむさくなっているように思うけどね。
 そんなわけで、みなさんも、あとでしまったと思わないよう著者への手紙は礼儀正しく書くことにしましょう。みんなけっこう目を通しているようですから。

 

 

タイの変態

 タイにも下着泥棒がいるらしい。私の知人の女性は何度も被害にあっている。
 また、女性の着替えをのぞくフトトギ者も多いらしい。この被害にあった知人も何人か知っている。
 こうした話を日本でしたら、友人たちは笑った。
「そんなことしなくても、タイは女が安いんだろ? だったら女を買えばいいじゃないか」
 そのとおりだと、たしかに思う。その気になれば、ビール2本分程度の出費で遊ぶことができるのだ。しかし、洋の東西を問わず変態は、そうしたノーマルな遊びでは満足できない。
 タイで活躍する変態の中には日本人だって立派にいる。
 タイで働きだしたばかりの女性に 「変態クラブに入りませんか」 と電話で言って喜んでいる男の存在も、私は知っている。
 親しくなった一人暮らしの女子学生を尾行し、アパートをつきとめ、電話番号を探り、うまくいかない場合は出入り口の前で張り込みをする営業マンも知っている。張り込みは勤務中に行う。だから当然、仕事などしない。それでも職がもらえるのだからタイはいい国だ。
 私はゴーゴーダンサーに知人が多いのだが、彼女たちからは、「日本人には変態が多い」 とよく言われる。客のホテルに行ってみて、そこにムチやロウソク、バイブが待っている確率が、ほかの国の男性に比べて格段に多いそうだ。なかには持参したセーラー服を着させてコスプレを楽しむものもいるという。パンティの収集家もすくなからずいるそうで、「日本にはそういう習慣があるの?」などと真面目に質問されて返答に窮したこともあった。ないよ、そんな習慣は。
 なかなか奥の深い世界だが、こんな嗜好の人たちには、あまり国外で活躍してほしくないというのが私の願いだ。
(新品のパンティと古いパンティを交換する習慣って日本にあるんですか? だれか知ってたら教えてください)

 

 

流行のプリクラ

 日本ではブームを通り越してゲームセンターの定番となったプリントクラブ。すぐにタイにも輸入されたが、その出足は悪かった。
 まず、置いてあるところが変だった。デパートの新聞スタンドやホールなどにぽつんと置いてあって、その隣に、これまたぽつんと制服を着た女の人が座っている。この女性が案内係で、お金を渡すと撮影の仕方などを説明してくれるのだが、それがなんだか恥ずかしい。プリクラは、写真を自分たちの好き勝手に撮ることで人気が出た商品なのに、タイでは証明写真と同じ撮り方をする。値段も100バーツとけっこうするし、ほとんど人気がなかった……のだが、98年に入って爆発的に人気が出るようになった。
 きっかけについてはほとんどわからないが、おおよその意見をまとめると、
「なんだかわからなかったんじゃないの?」
 ということらしい。今では行列ができているマシンもあって、ようやく日本に追いついたみたい。
 しかし利用者を見ていると、これが見事に学生ばかり。キャンパスのそばのショッピングセンターに重点的に設置されているからかもしれないが、日本と同じで制服姿でわあわあギャアギャア大騒ぎ。タイの学生はお金持ちの子女が多いから、これはみんな税金不払いで溜め込んだ親の金で楽しんでいるわけだな。
 そう思うと私などは、なんだか不愉快な気分になってしまう。日本の場合も、日焼けクラブに通った色黒ルーズソックス娘が騒いでいて不愉快だけれど、タイでもやっぱり愉快じゃない。
 そんなわけで私は、実はあの花柄写真を撮ってみたいと思っているのだが、プリクラのマシンにはなるべく近づかないようにしている。

 

 

売春婦は本当に貧しいだけか

 常識によると、タイの売春婦は貧しいことになっている。彼女たちは、貧しさのあまり体を売ったり、両親のために裸になったりしている、悲惨な環境に生まれたあわれな人たちなのだ……というのだが、ここでも私は思ってしまう──本当なのかな──と。
 そう思いはじめたきっかけは、私の知り合いのゴーゴーダンサーにあって、彼女は有名なパッポン通りで働いているが、金にはまったく困っていない。バンコク市内にある土地付きの一戸建で生まれ、両親は健在。大卒、OL経験もあり、郊外にコンドミニアムまで持っている。それでなぜゴーゴー+売春などというハードな仕事(これ、体力的にけっこうきつい仕事です)をしているかというと、
「男はみんな浮気者でドスケベだってことを納得したいからよ!」
 なんだと。
 彼女は亭主の浮気に腹を立てて離婚したのだが、彼女がいちばん腹立たしいのは、そんな男に恋したこと。男はみんな女の体だけが目当てで、飽きたらさっさと乗り換えるだけ。結婚するのは独占したいからで、そんな男の本性を見抜けなかった私がバカだオロカだ若すぎた……というわけで無知な自分を反省し、男の生理を学ぶためにゴーゴーバーに就職したという。
 私は当然、彼女の味方になり、
「世の中、そんな男ばかりじゃないよ。心から愛してくれる男だっているよ。ほら、この俺のように」
 などと言ってみるのだが、彼女はニヤリと笑うだけ。
「ほ〜う? だったら、なんでこんなところにいるのよ? 毎日バーに来て若い女の子のお尻を見てるのはなぜなのよ? ええ?」
 うーむ、それはだねえ、いつか君のような売春婦に出会えると思っていたからだよ。それで納得してくれない? だめ?
 ああそう、それが男の勝手なところなんですか。スンマセンねえ、ホントに……。

 

 

味の暴力団

 私の知人は大手アメリカ系ファストフード店を 「味の暴力団」 と呼んでいる。アメリカ人はケチャップとマスタード以外の調味料を知らないからだそうだ。
 タイは無数の調味料に囲まれている国だが、その知人はカーネル・サンダースおじさんの人形の前に立つといつもため息をつく。
「タイにはガイヤーンがあるのに、なんてこった。タイ人は味の暴力団の侵略に気づかないのか」
 しかし、タイ料理はすでに日本が開発した化学調味料の味に侵略されつくしている。その味は暴力団より悪質に、深く静かに悪意を広めているのだ。
 タイにはまずい料理店が少ない。タイ人は非常に味にうるさいので 「まずい店」 はすぐにはやらなくなって閉店に追い込まれてしまう。まずくても繁盛しているのはマクドナルドハンバーガーくらいだろうか。まあこれは、『高級店で食べる』 という見栄の部分ではやっているのだろう。この店のハンバーガーは高いので、裕福な人か外国人旅行者しか食べられない。よって他人に差をつけることができるのだ。
 それを証拠にそれみろ、ほかのレストランでハンバーガーを注文しているタイ人なんていないじゃないか。マクドナルドというアメリカンな店で食べるという付加価値がタイ人の自尊心をくすぐっているのだ。
 さて、バンコク市内で極めつけにまずい店といえば動物園(カオディン)内の食堂があげられる。うまい料理を作ってやろう、という意志がまったく感じられないほどまずい。楽しいデート気分に水をさす、怒り心頭のまずさだ。ある英文ガイドブックによると 「動物園内の食堂はおすすめ」 となっているが、この筆者はひどい味覚オンチか、自分で足を運んだことがないかのどちらかだろう……と思ってプロフィールを見たら、やっぱりアメリカ人だった。
 なるほど、それなら納得だね。

 

 

一日の始まりと終わり

 タイの一日は朝8時の国歌吹奏で始まる。国歌はテレビ、ラジオ、街頭スピーカーによって全国に流され、国民はその場に起立して拝聴する。歩行者は立ち止まり、ジョギング中の人も足を止める。国歌が終わればまた何事もなかったように動き始めるのが不思議に思える数十秒だ。
 官公庁が仕事を始めるのがこの30分後の8時半。彼らは月曜から金曜までの間、約1時間の休憩を挟んで午後4時半まで働く。デパートやショッピング・センターなどの施設は10時から夜8時までが一般的だ。
 一日中働く人の多いタイだが、夕方の6時には再び国歌が流され、長い一日の終わりを告げる。国歌はきっちり6時になると流され、どんなテレビ番組を放映していようがかまわず一時中断して、国と国王のイメージフィルムを差し込む。ボクシングやスポーツの生中継中でも容赦ない。駅や公園でも、朝と同じように人々は個々の動きを止め、国歌に聞き入る。
 しかし、これで一日が終わったわけでは決してない。特にバンコクでは、ここからこの街の本性が現れる。昼とは違った活気が忍び寄る闇の中から姿を現しはじめ、6時の国歌のそのあとは、「一日が終わった」 という安堵感よりも 「なにかが始まる」 といった期待感の方が強いことに気づく。
 ひょっとすると、大都市バンコクには一日の終わりがないのかも。あるのは朝8時と夕方6時の「始まり」だけかもしれない。

 

 

茶の間でモッコリ

 タイ人男性はトランクス型のパンツをはかない。一般的なのはブリーフ型のパンツで、市場の露店ではまず売っていない。デパートの下着売り場に行けば買えないこともないが、ブリーフ型の倍ほどの値がついているし、品数も少ない。普通の人たちよりも男の下着姿を見慣れているタイの娼婦たちに言わせると、
「そんなもの(トランクス型パンツ)をはいてるのは年寄りと日本人だけ」
 らしい。
 タイの男性のほとんどはブリーフ型パンツを愛用している。熱帯の暑さでのムレが心配だが、こちらのほうが、「かっこいい」のが着用の理由だそうだ。
 テレビでは頻繁に男性の下腹部を大写しにしたCMが流れている。女性の下着のCMは日本でも珍しくないが、男性の盛り上がった股間のアップCMはちょっと見かけない。しかし、タイでは茶の間でモッコリ! それだけ新型ブリーフ購入熱が高いということだろうが、そんなところで男の価値が決まってしまうのか──タイだったら決まってしまいそうだな。
 ともかく、キュッと股間を引き締めた分だけ男たちの気持ちも引き締まってくれるといいのだが……。

 

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