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十年前につきあっていた彼は、旅が嫌いだった。休みの度に旅に出る私を覚めた目で見ていた。一緒に行こうよ、と誘うと彼は言った。 「想像力の貧しいものだけが旅をする」 といったのはパスカルだったか。画一で過剰な情報を消費するだけの現代の旅はまさにその典型に見える。
コーランが流れる街角で、嘆きの壁に深く頭を垂れるユダヤ教徒の黒い後ろ姿に、何度も礼を繰り返し無心に祈るワットの老婆に、信じるものがある人間は幸せだと思う。強いと思う。 かつての栄華をしのばせる廃虚の間をやせ細った犬が歩いて行く。ねっとりとした風の中に、何かの気配を確かに感じている。人間は偉大だ。そしてちっぽけな存在だ。愚かで賢く、罪深く純真だ。ねえ、今でも山手線の中でも旅は出来ると信じてる? |
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