この借りはきっと返してやる

KISS ME COSMETICS VIET NAM
TECNICAL ADVISER

高橋 郁美

 

 

 オーストラリアで語学を学ぼうと思い日本を離れた高橋さん。ところがその前に、知人が働いているベトナムへ行ってみることにした。
 すると知人が、

「ちょうど仕事のできる人を探しているところだった」

 と言う。
 探しているのは日本の化粧品会社で、「人」 とは「メイクのスペシャリスト」 のこと。こんな専門技術を持つ人はざらにはいない。

 というわけで、彼女のベトナムでの職場があっさりと決まった。
 オーストラリア行きは、

「語学なんて、どこで学んでも同じだろう」

 との考え方でキャンセル。実際、海外指向の強いベトナムでは、語学学校はいくらでもあるのである。

 彼女にベトナムの予備知識はなかった。東南アジアだからといって、特に変わるところはないと思っていた。ところが、実際にショップに立ち、技術指導を始めてみると、ベトナム人の美的感覚の異様さに、彼女は愕然としてしまう。

「日本式の薄いメイクでは満足しないんです。持っている化粧品は全部使うといった感じで、とにかく目も口も肌も思いきり塗らないと気がすまない。チークも濃い色で、『これでもか!』 という調子で塗るんですよ。見ているだけで頭が痛くなってしまいます」

 また、効果をすぐに求めるのもベトナム人の特徴だ。日本製ファンデーションを使うと日本女性風の色白肌になれると思い込んでいるらしく、色白になれないと怒りだす客がいたりする。

「化粧品は医薬品じゃないと言っても納得しないから、もうどうにもなりません」

 仕事以外にも、ホーチミンという街そのものが彼女を疲れさせる。到着1週間目にひったくりにあい、ネックレスをもぎ取られた。つい最近も、虫歯を治療しに病院に行ったら間違って健康な歯を抜かれてしまったし、あきれて別の病院に行ったら治療費を20万円も請求されてしまった。

「なにか事件があるたびに、『またベトナムにやられた』 と思います。以前はそのたびに日本に帰りたくなりましたけど、いまは違う。『いつか借りを返してやるぞ』 っていう感じで、しばらくはこの国にいて、その機会をねらうつもりです」

 おかげでたまる一方のストレス発散法は、スーパーカブで市内を飛ばしまくることと酒を飲むこと。そんな彼女が最期に一言、

「東南アジアは肌に悪い」

 

 

プロフィール
IKUMI TAKAHASHI

 1971年、東京都江戸川区出身。
 ヘアメイクとカラーリストの専門学校を卒業し、某化粧品会社に就職。専門技術を生かしたあと、広告代理店に入社。
 1996年8月にベトナム入りし、翌9月にはホーチミン市内の日系化粧品会社キスミー・コスメチックスに入社。
 現在は退社し、ベトナムへの仮りの返し法を模索中。

 

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