興奮と熱狂のムエタイ

by 藤井伸二+ブライアン

 

その歴史〜必殺の戦闘術

 他国と国境を接しているタイはこれまで何度も隣国との熾烈な領土争いを繰り広げてきた。
 象が戦車のかわりをし、弓や剣が武器として使われていたそんな当時、自然発生的に生まれた“素手で相手を仕留められる技”が、現在のムエタイの原点。
 それを天才武術家であった16世紀アユタヤー王朝の王ナレスワンが熟成させ、戦闘用格闘技として普及させたのがすべての始まり。
 第2次世界大戦後には国際式ボクシングの要素を取り入れスポーツ的になったが、基本は敵を倒す(殺す)こと。立ち技の格闘技では世界最強とも言われているが、それもこうした“殺人技”としての発生起源に理由があるのだ。

 

スタジアムへ

 現在のムエタイ界の主流は王室系ラーチャダムヌーンと陸軍系ルンピニーの2派。格式は若干ラーチャダムヌーンのほうが上というが、選手の実力にはそれほど差がないという。

試合が行われるスタジアムは両者ともリングサイド、2階席、金網に囲まれた3階席に別れており、すべて自由席。だから、よい席がほしければはやめにスタジアムに足を運んだほうがいい。

 試合のルールは3分間5ラウンド制で、ラウンド間の休憩時間は2分間。勝負はK.O.でなければリング下の3人の副審による採点で決定され、その場合、パンチ技より蹴り技のほうがポイントが高い。

 こうした試合が各スタジアムとも一晩10試合ほど組まれ、まず軽量級や無名選手のファイトで始まり、7試合目あたりから注目選手が出始める。

 スタジアムの入口で簡単な選手紹介プログラムが配られるので、もらっておくと参考になるだろう(英語版あり)。

 

試合開始

 さあ選手がリングにあがっていよいよ試合開始、と思うのは気が早い。彼らはグラブを交わす前に、リング上でまず“ワイ・クルー”を舞う。

 これは直訳すれば“先生への舞”で、コーチや神などに捧げる感謝と祈りの意味が込められているが、最近は形骸化し、たんなる試合前の儀式と化しているのが真実。

 それでも、まるでコブラ使いのような粘っこい音楽にあわせて踊る彼らの舞姿は官能的で美しく、見る価値は十分にある。

 ワイ・クルーがすむとゴングが鳴って試合開始。だが1、2ラウンドはお互いの様子の探り合いに終始し、あまり激しさは感じられない。

 なぜかといえば、これにも理由があるのである。

 

ムエタイと賭博

 現代ムエタイと賭博は切っても切れない関係にあり、すべての試合は賭けの対象になっている。金網に囲まれた3階席を見ればわかると思うが、ここは簡単にいえば賭博者用の席。ここにいる連中は純粋にスポーツを楽しんでいるのではなく、博打の対象として選手を見ているのだ。

 客に向かって手をあげているのが賭け屋で、賭け率などはその指サインで表示される。客はまず賭け屋が発行した勝敗予想表(!)を見て作戦を立て、1、2ラウンドの選手の動きを見、賭け屋の賭け率を調べてから金を張る。

 だから選手たちも、最初は様子見に終始せざるを得ないのだ。

 なにしろ序盤の1、2ラウンドは副審たちもまともにジャッジしていないというくらいだから、本格的な戦いは3ラウンドからと言ったってかまわない(ただし、たまに不意打ちをして勝つ選手もいる)。

 そして試合は、わたしたちの期待に反してK.O.で決まる派手な試合が少なく、ほとんどが判定にまで持ち越される。

 選手が使うグローブは基本的に6オンスと国際式よりかなり薄く、それだけでもK.O.シーンが増えそうなものなのに、なぜなのか。それはK.O.で試合が決まらないようスタジアム側が選手の実力差を非常に綿密に検討し、試合を組んでいるためだ。

 それもこれも、K.O.で早いラウンドに試合が決まると客が金を賭けている時間がなくなるからなのである。

 しかし逆に考えれば、賭けのおかげで鍛え抜かれたボクサーたちが実力伯仲の相手と全力で戦う姿を見ることができるのだ。

「K.O.シーンが少なくてつまらない」

 と嘆く人も多いが、実際こんなハイレベルな真剣勝負は、ムエタイのリング以外どこにもないと思って間違いないだろう。

 

スタジアム開場日

ラーチャダムヌーン
(1945年創立)
Ratchadamnoen
月・水曜 19:00〜
木曜   17:00〜,21:00〜
日曜   14:00〜,18:00〜
 エアコン付き。

ルンピニー
(1956年創立)
Lumpini
火・金曜      19:00〜
土曜   17:00〜,20:30〜
 エアコンなしの半屋外スタジアム。

 

両スタジアムとも、特別試合の日には
入場料が2〜3倍になる。

 

 

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